8月21日、融安県にある中医薬メーカーの広西仙草堂製薬の実験室で検査する従業員。(南寧=新華社記者/趙歓)
【新華社南寧9月1日】焼け付くような暑さが続く8月、中国広西チワン族自治区柳州市の融安県東起郷で村民の竜昌楊(りゅう・しょうよう)さん(62)が中医薬(中国伝統医薬)の材料となる青蒿(セイコウ)の収穫に追われていた。乾燥させて干し草にした後、アルテミシニンという成分を抽出して作られた医薬品は、何千キロも離れたアフリカ大陸に輸送され、現地でマラリア治療薬として用いられる。
石漠化(表土流出)した山岳地帯にある同県は、作物栽培には不向きな荒れた山地や傾斜地が多いが、乾燥に強い青蒿の栽培には適している。
かつて、山を覆うように生い茂っていた青蒿は、荒れ地に生える植物の代名詞にすぎなかった。
8月20日、融安県の青蒿の栽培地。(南寧=新華社記者/趙歓)
中国の科学者、屠呦呦(と・ゆうゆう)氏率いるチームが1972年にアルテミシニンを発見し、世界中のマラリア患者に一筋の光を届けた。世界保健機関(WHO)は2005年にマラリアに対する第一選択療法として、アルテミシニン併用療法を推奨した。
県内のそこかしこに生い茂る青蒿は、突如大きな価値を持つようになった。竜さんによると、1ムー(約667平方メートル)当たりの青蒿の収穫量は多い時で約300キロ、少ない時でも100キロ以上ある。企業と取り決めた買い取り保証価格は1キロ当たり8元(1元=約21円)で、1ムー当たりの生産額は千元以上に上る。
村民が育てた青蒿は通常、県内にある中医薬メーカーの広西仙草堂製薬が買い取る。同社は国内最多のアルテミシニン生産量を誇るメーカーで、全国の生産量の3分の1を占める。同社の孔雪萍(こう・せつへい)常務副総経理は「投与量から推算すると、世界中に供給されるマラリア治療薬は年間約4億人分に上るが、このうち約1億人分に同社が製造するアルテミシニン原料が使用されている」と語った。
融安県で青蒿を収穫する農家の人。(2019年5月9日撮影、南寧=新華社記者/農冠斌)
中国で初めて発見され、抽出に成功したアルテミシニンは、「特効薬」として世に出て以来、半世紀以上にわたって中国でのマラリア撲滅を後押しした。WHOの「世界マラリア報告書2023」によると、2000~22年の間に、アフリカでのマラリアによる死亡率は人口10万人当たり0・14%から0・055%に減少した。アルテミシニン系薬剤の広範な使用は、マラリア対策に変化をもたらした重要な一因となった。
アルテミシニンの発見は新たな出発点に過ぎず、後年、アルテミシニン系薬剤が開発されるまでには、数え切れないほどの困難と実験の連続だった。同省桂林市の製薬会社、桂林南薬の彭小丹(ほう・しょうたん)総裁は「重度のマラリア患者は昏睡(こんすい)状態に陥ることが多いため、薬を経口投与できない。アルテミシニンは水に溶けにくいため、注射も難しい」と説明。この難題に立ち向かうべく、社内の上の世代の研究者らが実験に実験を重ねた末、アルテスネイトを開発したと語った。
融安県で青蒿を栽培する農家の人。(2019年5月9日撮影、南寧=新華社記者/農冠斌)
彭氏によると、昨年末時点で同社の注射用アルテスネイトは世界中の重症マラリア患者を累計6800万人以上救い、同社のマラリア予防薬を服用したアフリカの子どもは2億5800万人に上った。
中国はここ数年、マラリア対策でアフリカ諸国と積極的に協力しており、中国の抗マラリア対外援助医療チームは多くの「一帯一路」諸国を訪れ、マラリア流行地域を巡っている。同自治区の山村からアフリカの農村まで、青蒿が命の懸け橋となっている。(記者/農冠斌、趙歓、張卓文)
融安県の青蒿の栽培地で草刈りをする農家の人。(2019年5月9日撮影、南寧=新華社記者/農冠斌)
融安県にある中医薬メーカーの広西仙草堂製薬に納品するため、天日干しした青蒿の葉を集める農家の人。(2019年9月11日撮影、南寧=新華社記者/農冠斌)
8月21日、融安県の中医薬メーカー、広西仙草堂製薬で展示されたアルテミシニン。(南寧=新華社記者/趙歓)
融安県の中医薬メーカー、広西仙草堂製薬で抽出されたアルテミシニンのサンプル。(2019年6月17日撮影、南寧=新華社記者/農冠斌)
8月21日、融安県にある倉庫で乾燥させた青蒿を運ぶ作業員。(南寧=新華社記者/趙歓)