【新華社ジュネーブ8月29日】国連ジュネーブ事務局の中国常駐代表を務める陳旭(ちん・きょく)大使は24日、世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長に書簡を送り、新型コロナウイルスの起源調査問題における中国の一貫した立場を重ねて表明し、武漢ウイルス研究所から流出した可能性は極めて低く、これは中国・WHO合同研究報告で得られた明確な結論だと強調した。関係方面が実験室の漏えいを排除できないと主張するならば、公平、公正の原則に基づき、米国のフォート・デトリック基地やノースカロライナ大学に対して調査を行うべきだと主張した。
同書簡には「フォート・デトリック(米陸軍感染症医学研究所)に関する疑問点」と「ノースカロライナ大学バリック教授チームのコロナウイルス研究について」という二つの非公式文書と、2500万人を超える中国のネットユーザーが署名したフォート・デトリック基地への調査を求める公開書簡が添付された。
二つの非公式文書の全文は次の通り。
「フォート・デトリック(米陸軍感染症医学研究所)に関する疑問点」
フォート・デトリックは米国の生物軍事化行動の中心拠点であり、米国による同拠点での活動が非合法かつ不透明で、安全でないことに対し、国際社会は以前から懸念を抱いていた。同拠点のうち、米陸軍感染症医学研究所の問題が最も際立っており、新型コロナウイルスに関連する疑問点が数多く存在している。
一、フォート・デトリック基地は歴史上、米生物兵器計画の中心地であり、陸軍感染症医学研究所はその最も主要な実体である。この拠点は米政府の最も暗い実験センターだと言われている(注1)。米国が1969年に生物兵器の放棄を宣言し、75年に「生物兵器禁止条約」を締結した後も、この拠点では戦争用生物兵器薬剤の研究、貯蔵が継続されてきた(注2)。
二、陸軍感染症医学研究所には米軍唯一のP4級実験室がある。同研究所にはほぼ全ての高病原性病原体が保管されており、エボラウイルスや炭疽菌、天然痘ウイルス、ペスト菌、重症急性呼吸器症候群(SARS)コロナウイルスが含まれている(注3)。同研究所の複数の研究員がSARS、中東呼吸器症候群(MERS)などコロナウイルスに関する研究をしている(注4)。2003年にSARSが流行した後、同研究所はノースカロライナ大学バリック教授チームと協力し、SARSウイルスを合成する全遺伝子配列クローンプラットフォームを開発。関連成果を論文として発表した。論文によると、SARSウイルスのリボ核酸(RNA)を入手してから2カ月以内に、SARSウイルス全遺伝子配列の合成に成功した(注5)。これは前記機関が03年に、極めて成熟したSARS関連コロナウイルスの合成・改変能力を備えていたことを示している。
陸軍感染症医学研究所が07年に発表した論文によると、エボラウイルスを利用してアカゲザルの動物実験を行った際に、実験用ウイルス株を逆遺伝学の技術改造によって獲得し、フーリン切断部位を除去し、ウイルス毒性の変化を観察した(注6)。フーリン切断部位は新型コロナウイルスの毒性が非常に強い原因の一つだと考えられている。同研究所は18年、アフリカミドリザルを使い、MERSウイルス感染モデル研究を実施。発症機序の研究とワクチンの開発を行った(注7)。新型コロナウイルス感染症発生後、同研究所は米陸軍医学研究開発部隊に属するウォルター・リード陸軍研究所(WRAIR)と共同で新型コロナウイルスワクチンの開発に取り組んだ(注8)。
三、陸軍感染症医学研究所で複数のバイオセーフティー事故が発生
2001年、米国で5人が死亡した炭疽菌攻撃事件が発生したが、容疑者は同研究所の出身だった(注9)。09年に米政府関係者が同研究所で検査を行った際、実験室データベースに登録されていない病原体が見つかり、実験室の一部作業を中止した(注10)。
14年5月、フォート・デトリック基地の生物研究機関における有毒物質の取り扱いに過失があり、地域のトリクロロエチレン含有量が基準レベルの42倍に達したとして、同基地が米国内で起訴された(注11)。15年2月には、メリーランド州フレデリック郡の106世帯・個人が、同基地からの有害物質発生による人的被害を理由に集団訴訟を起こし、7億5千万ドル(1ドル=約110円)の損害賠償を求めた。しかし、米政府と陸軍は同基地における不当行為の存在を否定してきた(注12)。
19年6月、米疾病対策センター(CDC)が陸軍感染症医学研究所P4実験室を検査した際に重大な規則違反を発見し、同年7月に実験室閉鎖の命令を下し、全ての研究活動を停止させた。米CDCの報告によると、実験室では主に下記7点の規則違反があった(注13)。
1.同研究所がバイオセーフティーなどの手順を系統的に違反し、実験室のドアを開けたまま部屋から大量の有害廃棄物を運んだことで、病原体の流出や外部汚染のリスクを大幅に高めた。
2.霊長類動物を解剖した際に、一部スタッフが必要な呼吸用保護具を着用しないまま何度も実験室に入り、危険なエアロゾルを含む生物環境にさらされた。
3.スタッフのトレーニングに対する試験が欠如しており、スタッフがトレーニング内容を理解、把握しているかどうかを評価できなかった。
4.生物系有害廃棄物を処理する際に、手袋を着用しないスタッフがいた。
5.許可されていない人間が実験室の廃棄物に接触することを防止できていなかった。試薬に汚染された個人防護具は専門エリアで保管しなければならないが、当該エリアは外部の者の立ち入りを制限していなかった。
6.スタッフが迅速で正確的な毒素の在庫管理を行わなかった。
7.実験室の建物と内部施設の表面は密閉されておらず、コンジットボックスや天井、バイオセーフティーキャビネットの継ぎ目に亀裂があった。
19年11月、実験室は再稼働したが、改善状況は公表していない。
四、実験室閉鎖後、フォート・デトリック基地付近のコミュニティーで呼吸器疾患が大規模発生した。
2019年7月、バージニア州のグリーンスプリングコミュニティーで54人が咳や肺炎などの症状を訴えた。同コミュニティーはフォート・デトリック基地から車で1時間ほどの距離にある(注14)。同州の保健当局者によると、同年夏に現地の呼吸器疾患症例が50%近く増加した(注15)。
同年7月、ウィスコンシン州で謎の電子タバコ肺炎が流行した(注16)。患者は息切れや発熱、咳、嘔吐、下痢、頭痛、めまい、胸痛などの症状を訴えた(注17)。この時から米国では過去に例がない全国的な肺損傷疾患が爆発的に流行した。同年12月17日までに、50州で延べ2500人以上の入院が報告された。専門家はこれらの疾患が一種あるいは多種の新たな臨床症候群を表しており、病因を確定するためにより多くの研究が必要との認識を示した(注18)。
2019年の米国でのインフルエンザ流行は新型コロナウイルス感染症と重なり合う可能性がある。米CDCによると、同年10月から20年4月までのインフルエンザシーズンにおける感染者数は3900万~5600万人で、死者数は2万4千~6万2千人に達した(注19)。米国の大規模に流行したインフルエンザと新型コロナウイルス感染症が重なった患者がいるかどうか、特に19年10月かそれ以前にインフルエンザと誤診された新型コロナ患者については、米国全土で全面的な追跡調査・研究が必要となっている。
五、米国民がフォート・デトリック基地の関連情報を公開するよう請願した。2020年3月、米国民はホワイトハウスの請願用ウェブサイトで、米政府に対し、同基地の情報、特に19年に陸軍感染症医学研究所の実験室を閉鎖した理由について公開し、新型コロナウイルスとの関連性を明らかにするよう要求した。米政府は一切返答せず、同ウェブサイトは全面閉鎖された。
「ノースカロライナ大学バリック教授チームのコロナウイルス研究について」
ノースカロライナ大学のラルフ・バリック教授とそのチームは、長期的かつ系統的に機能獲得性を含むコロナウイルス研究に従事している。彼らは既にコロナウイルスの合成・改変技術を把握し、コロナウイルス分野における研究の特許を複数出願している。
2003年SARS発生後、バリック氏のチームと米陸軍感染症医学研究所が協力し、SARSウイルスの合成に用いる全遺伝子配列クローンプラットフォームを開発。関連成果を論文で発表した。論文によると、SARSウイルスのRNAを入手してから2カ月以内に、同ウイルスの全遺伝子配列の合成に成功している(注20)。これは前記機関が同年に極めて成熟したSARS関連コロナウイルスの合成・改変能力を備えたことを示している。
注目すべきは、バリック氏のチームが米陸軍感染症医学研究所と密接な協力関係にあり、研究所メンバーと組み換えコロナウイルスの特許を共有し(注21)、複数の関連論文を共同で発表していることだ(注22)。その後、バリック氏の学生だったリサ・ヘンズレー氏(注23)が卒業後に同研究所に入ったことで、バリック氏のチームと同研究所は協力レベルをさらに拡大した。
08年12月、バリック氏は再び共著者として、コウモリが保有するSARS様コロナウイルス(SL-CoVs)を再構成したと論文で発表し、各種SARS様コロナウイルスを設計、合成することが感染症を防ぐ重要なステップだと訴えた(注24)。
15年11月、バリック氏のチームは論文「伝播性コウモリコロナウイルス群のうちSARS様ウイルスクラスターがヒト感染の可能性を持つ」を発表した。論文で言及したキメラウイルスは、武漢ウイルス研究所の石正麗(せき・せいれい)氏率いるチームが発見したコウモリコロナウイルス(SHC014)のSタンパク質関連遺伝子配列を、米国チームのSARSコロナウイルスのゲノム骨格に入れ替えることで作られた(注25)。研究におけるウイルス改変とマウス感染実験はいずれもノースカロライナ大学で実施されており、再構成されたキメラウイルスも石正麗チームには提供されていなかった。
米国の一部の人間は、武漢ウイルス研究所が行った機能性獲得研究が原因でコウモリコロナウイルスが新型コロナウイルスに変異し、実験室から流出したことで世界にパンデミックをもたらしたと主張し、中国を中傷してきた。実際は、米国こそがこうした研究の最大の資金提供者と実施者であり、特にバリック氏のチームはこの分野の権威である。同氏チームと関わりのある実験室を徹底的に調べることで、関連研究が新型コロナウイルスに発展したのか、発展できたのかが明らかになる。
注1 報道:《The Secret History of Fort Detrick, the CIA’s Base for Mind Control Experiments》,https://www.politico.com/magazine/story/2019/09/15/cia-fort-detrick-stephen-kinzer-228109.
注2 報道:《U.S. Continues Defensive Germ Warfare Research》,https://www.nytimes.com/1982/09/07/us/us-continues-defensive-germ-warfare-research.html.
注3 米政府が「生物兵器禁止条約」に提出した「信頼醸成措置」の発表資料
報道:《USAMRIID Study Leads to Approval of New Smallpox Vaccine》,https://globalbiodefense.com/2019/10/20/army-study-leads-to-approval -of-new-smallpox-vaccine/.
注4 学術論文:《Methods for Producing Recombinant Coronavirus》、《Cynomolgus Macaque as an Animal Model for Severe Acute Respiratory Syndrome》、《MERS-CoV Pathogenesis and Antiviral Efficacy of Licensed Drugs in Human Monocyte-Derived Antigen- Presenting Cells》.
注5 学術論文:《Reverse Genetics with a Full-length Infections cDNA of Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus》.
注6 学術論文:《Proteolytic Processing of the Ebola Virus Glycoprotein is not Critical for Ebola Virus Replication in Nonhuman Primates》.
注7 学術論文:《African Green Monkey Model of Middle East Respiratory Syndrome Coronavirus (MERS-CoV) Infection》.
注8 米陸軍感染症医学研究所ウェブサイト:《United States Army Medical Research Institute of Infectious Diseases》,http://www.usamriid.army.mil.
注9 報道:《Scientist’s Suicide Linked to Anthrax Inquiry》,https://www.nytimes.com/2008/08/02/washington/02anthrax.html.
注10 報道:《U.S. Army Suspends Germ Research at Maryland Lab》,https://www.nytimes.com/2009/02/10/world/americas/10iht-10germs.20070589.html.
注11 報道:《Developers File $37 Million Federal Suit over Fort Detrick Contamination》,https://www.baltimoresun.com/maryland/bs-md-fort-detrick-lawsuit-20140509-story.html.
注12 報道:《Supreme Court Won’t Hear Fort Detrick Death Lawsuit》,https://post111.com/supreme-court-wont-hear-fort-detrick-death-lawsuit.
注13 報道:《Army Germ Lab Shut Down by CDC in 2019 had Several ‘Serious’ Protocol Violations that Year》,https://wjla.com/news/local/cdc-shut-down-army-germ-lab-health-concerns.
注14 報道:《Respiratory Outbreak Being Investigated At Retirement Community After 54 Residents Fall Ill》,https://abcnews.go.com/US/respiratory-outbreak-investigated-retirement-community-54-residents-fall/story?id=64275865.
注15 報道:《Respiratory Illness in Virginia Puzzles Health Officials》,https://www.washingtonpost.com/dc-md-va/2019/08/02virginia-reports-higher-than-usual-number-respiratory-illnesses/.
注16 報道:《Mysterious Lung Disease Linked to Vaping Spreads Across 14 U.S. States》,https://www.news-medical.net/news/20190821/Mysterious-lung-disease-linked-to-vaping-spreads-across-14-US-states.aspx.
注17 報道:《CDC, State Health Officials Investigating Link between Vaping and Severe Lung Disease》,https://edition.cnn.com/2019/08/17/health/vaping-lung-disease-states/index.html.
注18 学術論文:《Pulmonary Illness Related to E-Cigarette Use in Illinois and Wisconsin--Final Report》.
注19 米CDCウェブサイト:https://www.cdc.gov/flu/about/burden/2019-2020.html.
注20 学術論文:《Reverse Genetics with a Full-length Infections cDNA of Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus》.
注21 学術論文:《Methods for Producing Recombinant Coronavirus》.
注22 学術論文:《Reverse Genetics with a Full-length Infections cDNA of Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus》、《Cynomolgus Macaque as an Animal Model for Severe Acute Respiratory Syndrome》.
注23 ウィキペディア:https://en.wikipedia.org/wiki/Lisa_Hensley_(microbiologist).
注24 学術論文:《Synthetic Recombinant Bat SARS-like Coronavirus is Infectious in Cultured Cells and in Mice》.
注25 学術論文:《A SARS-like Cluster of Circulating Bat Coronaviruses Shows Potential for Human Emergence》.
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