8月20日、北京大学未来技術学院の実験室で、マウスに蛍光マーカーを注射する準備をする研究者。 (北京=新華社配信)
【新華社北京9月4日】大脳のニューロン(神経細胞)とシナプス(神経細胞同士の接合部)の活動の動的変化を正確に捉えることは、脳科学研究の難題の一つとされる。中国の科学者らはこのほど、次世代型の多色2光子小型顕微鏡を独自に開発。重さわずか2・6グラムながら、自由に動き回るマウスの脳深部の高解像度による2光子カラーイメージングに世界で初めて成功し、複雑な脳機能メカニズムの解明に新たな道を開いた。
4年にわたる研究の成果は21日、科学誌ネイチャー・メソッズ電子版に掲載された。
2光子顕微イメージング技術は、2光子吸収と蛍光励起に基づく非線形光学イメージング技術で、重要な構成要素の一つに中空光ファイバーがある。光ファイバー内部の微細構造を利用してレーザーを内部に閉じ込めて伝送し、蛍光標識した細胞に照射して蛍光画像を得る。レーザーの波長が異なれば、得られる画像の色も異なるが、従来の中空光ファイバーは単一波長の超短パルスレーザーしか伝送できず、多色イメージングを行えなかった。
8月20日、北京大学未来技術学院の実験室で、多色小型2光子顕微鏡の応用について学生と議論する北京信息科技大学の呉潤竜氏(右)。(北京=新華社配信)
北京大学の程和平(てい・わへい)、王愛民(おう・あいみん)両氏のチームは、北京信息科技大学の呉潤竜(ご・じゅんりゅう)氏のチームと共同で、新型の超広帯域中空光ファイバーを開発。低損失、低分散などの特性を持ち、700~1060ナノメートルまでの多様な波長のフェムト秒レーザーの伝送が可能で、多色小型2光子顕微鏡の開発につながった。
呉氏は「脳内の神経細胞や細胞小器官の動きをカラーでライブ中継するようなもの」だと説明。これまでは中空光ファイバーの制約から1種類の細胞しか観察できなかったが、今は細胞ごとに異なる蛍光標識を施すことで、さまざまな細胞間の複雑な作用を鮮明に捉え、協調作用の仕組みを研究できるようになったという。
研究者らは、アルツハイマー病を患うマウスの頭部にこの顕微鏡を装着し、神経細胞のカルシウムシグナル、ミトコンドリアのカルシウムシグナル、アミロイド斑の沈着を赤緑青の3色で同時に動態撮影することに初めて成功。斑の周囲では疾患の初期段階から細胞やミトコンドリアの活動に異常が見られることを確認した。
8月21日、北京大学未来技術学院の実験室で顕微鏡光学系の調整実験を行う研究者。(北京=新華社配信)
研究チームはさらに、マウスの大脳皮質の深さ820ミクロンを超える場所で神経細胞のカルシウムシグナルと構造の画像を取得。脳組織を損なわずに得た現時点で最も深い小型2光子顕微鏡の画像となった。顕微鏡のレンズは、広視野観察と高解像度の高精細イメージングとのシームレスな切り替えも実現した。
北京大学国家生物医学イメージング科学センター主任で中国科学院院士(アカデミー会員)の程氏は、多色蛍光標識による非侵襲的な深部脳イメージングはこれまで、大型の据え置き装置でしか実現できなかったと指摘。チームは今回、小型2光子顕微鏡で初めて多色励起イメージングの難題を克服し、脳の複雑なネットワーク研究に画期的進展をもたらしたとし、今後は脳の認知原理の解明や脳疾患メカニズムの研究、神経疾患の薬剤評価、さらにはブレイン・マシン・インターフェースなど幅広い分野での応用が見込まれると語った。(記者/魏夢佳)