【新華社東京2月18日】新華社国家ハイエンドシンクタンクは18日、東京で開かれた中日メディア・シンクタンク人文交流会で、「文明間の交流と学び合いで人類文明の発展と進歩を促す」と題したシンクタンク報告書を発表した。全文は次の通り。
文明間の交流と学び合いで人類文明の発展と進歩を促す
新華社研究院
目 次
はじめに
第一章 文明間の交流と学び合いの歴史を振り返る
一、交流と融合が築いた中華文明の輝かしい歴史
二、相互接続と学び合いが描いた世界文明の華麗な絵巻
三、交流と学び合いが文明進歩の原動力引き出す
第二章 人類文明の発展が直面する困難
一、文明発展の原動力を弱める経済の鈍化
二、文明の発展基盤を脅かす政治環境の混乱
三、共通認識を崩壊させる世界的な文化摩擦
第三章 文明間の交流と学び合いのための「中国の案」
一、世界の発展を後押しし、文明進歩の土台を固める
二、世界平和を促進し、文明共存の秩序を守る
三、対話・交流をけん引し、文明協力の空間を広げる
第四章 文明間の交流と学び合いのグローバルな力の結集
一、国際交流・協力の強化と文明交流の新たなビジョン
二、グローバルガバナンスの変革と文明発展の新秩序
三、人類全体の利益の実現と文明の美しい故郷の構築
終わりに
リポート作成者について
はじめに
人類の文明史は、多元的な文明が共生し、共に前進する歴史である。中華文明は5千年以上前から、世界各地の文明と積極的に交流し、互いの長所をくみ取り、互いを照らし合ってきた。2千年余り前、中国前漢の張騫(ちょう・けん)は西域への道を切り開き、文明が相互に学び合う壮大な歴史の先駆けとなった。シルクロードはそれ以来、中国と世界の懸け橋として、共同での進歩を支えた。東西青銅文化の交流から「琥珀の道」の形成、新航路の開拓まで、異なる文明は交流し、互いに参考にし合い、融合し、人類史の壮大な絵巻を共に描いてきた。
歴史をさかのぼってこそ、今ある世界を理解することができる。
世界はまさに100年に1度と言われる大変動を迎えている。経済回復は行き詰まり、政治的動乱はますます深刻になり、文化の対決も激しさを増し、「文明の衝突」を唱える論調が横行している。人類文明は歴史の岐路に立っている。
中国は時代の大きな流れを受け止め、「平等、学び合い、対話、包摂」という文明観を提唱し、文明間の交流で隔たりを乗り越え、学び合いで衝突を乗り越え、包摂で優劣の差を乗り越えることを強調し、人類文明の行き詰まりの打破、世界文明の共存共栄の促進により多くの選択肢を提供してきた。「グローバル発展イニシアチブ」「グローバル安全保障イニシアチブ」「グローバル文明イニシアチブ」を提起し、共同繁栄に持続的な原動力を注ぎ込み、平和的発展により多くのプラスのエネルギーをもたらし、世界の現代化と人類進歩の推進に大きく貢献している。
文明は多様であるがゆえに交流し、交流があるからこそ互いに学び合い、互いに学び合うことで発展していく。(注1)世界が共通の難題に直面する中、各国は手を携え、文明間の交流と学び合いを強化し、国際交流と協力を深め、公正で合理的な国際秩序を構築し、全人類共通の価値を発揚、人類文明の進歩を推進する強大な力を結集し、恒久平和、安定、繁栄という文明発展の新たな道へと世界の人々を導き、人類運命共同体の構築を推進しなければならない。
第一章 文明間の交流と学び合いの歴史を振り返る
中華文明は古くから開放と包摂で世界に名を馳せてきた。あらゆるものを寛容に受け入れ、異なる文化の長所を吸収することで、自らの輝かしい歴史を築き上げた。人類文明は長い歴史の中で、数え切れない変化を遂げながら、異なる文明が相互に学び合うことで、一枚一枚の華麗な絵巻を描き上げた。世界の歴史が明らかにしたように、文明が栄え、人類が進歩するには、大同につき小異を残し、さまざまなものを受け入れること、文明が交流し学び合うことが欠かせない。
一、交流と融合が築いた中華文明の輝かしい歴史
長い歴史と大きなスケールを持つ中華文明は、中華民族の活力と発展の豊かな栄養であり、世界の中でそびえ立つ中華の自信の根源でもある。5千年以上の歴史は文化の深みと文明の蓄積を生み出し、中華文化が代々伝える文明の遺伝子を形成した。長い歴史こそが、中華文明がオープンで寛容な姿勢であらゆるものを受け入れ、他の文明と対話・交流・融合し、長所を吸収して活力を増し、交流と学び合いの中で伝承と革新を実現することを可能にした。
和して同ぜず、調和し共生する——中華文明の往来・交流・融合の価値基準。中華文明にとって文化の違いは対抗や衝突の源泉ではなく、文化のぶつかり合いこそがその価値基準を成熟させてきた。異なる文明の多様性を認め、平等を尊重するということである。「礼記」のうちの一篇で「四書」の一つとして知られる「中庸」は「万物並び育して相害せず、道並び行われて相もとらず」と記している。歴史学者の銭穆(せん・ぼく)氏は「中国人は常に『天人合一』の理想を持ち、外部のさまざまな見慣れないものであっても融合、調和し、一つに融合することができると考えてきた」(注2)と論じた。中華民族の思想においては常に、和して同ぜず、心を合わせて助け合い、調和し共生するという主張が主流となってきた。
少数民族が多い西南部への道を開いた司馬相如、遠く吐蕃に嫁いだ文成公主の「和親」などの歴史はいずれも、調和や平和、共生を重んじる中華民族の価値観を表している。唐代には世界各地から遣唐使、留学生、胡商が到来し、異なる文明が中華の土地でぶつかり合い、融合し、互いの発展を促した。中華民族は長い歴史の発展の中で、和して同ぜずとの基準で矛盾を解消し、相違を取り除き、調和と共生の理念により、異なる文明が平和的に補い合い、発展することを促した。
開放的に受け入れ、異なる文化の長所を吸収する——各国と調和を取ることのできる中華文明の広い度量。数千年の歴史の中で、各民族と各地域の優秀な文化の競争、ぶつかり合い、交流、融合、昇華により、多元的な要素が互いに関連しながら一体となった中華文化が形成された。「周礼」の完成や秦漢代の統一を経て、中華文化が徐々に形作られ、「五方の民が共に天下にいる」という構造ができた。趙代の武霊王の「胡服騎射」(北方民族の衣服をまとい騎馬で戦う)から北魏の孝文帝の漢化政策まで、「洛陽の家々で胡楽を学ぶ」から「万里にわたり羌人が漢民族の歌を歌う」まで、辺境民族の人々への「雅歌儒服」の浸透から中原地域での「胡服胡帽」の流行まで、各民族の文化は交流の中で中華文明という歴史の大河に流れ込んだ。
中華文明は中国の地で生まれた文明であると同時に、他の文明との絶え間ない交流と学び合いで形成された文明でもあり、開放的な文明体系と言える。漢代には張騫が西域に赴いてシルクロードの先駆けとなり、中国と外部世界の交流のドアを西に向かって開いた。唐代には玄奘三蔵が仏法を求めて天竺(インド)に向かい、仏教をこの東の土地で普及させた。宋代には海外貿易を積極的に開拓し、周辺国家の経済発展を促進する役割を果たした。明代には鄭和(てい・わ)が7回にわたりインド洋を航海し、中国の貿易・文化交流を東南アジアやアフリカにわたる広大な地域へと拡大した。近代に入ってからは「西学東漸」(西洋の学問の東アジアでの普及)や新文化運動が起こり、マルクス主義も中国に伝わった。中華民族は昔から各文化を受け入れ、各国と調和を取ることのできる広い度量で域外文明の成果を幅広く学び、長所を取り入れながら革新を続けてきた。
美美与共、天下大同——中華文明による交流と学び合いの実践の最終目標。社会学者の費孝通(ひ・こうつう)氏は、異なる文明間の共存原則は「各美其美、美人之美、美美与共、天下大同」(注3)にあるとした。「各美其美」はそれぞれの国家と民族が自らの文化を発揚すること。「美人之美」は異文化の優れたところを認め、学ぶこと。「美美与共」は各民族が互いに尊重し、互いを受け入れることで人類文明の共同繁栄を促進することを意味している。
「大同」は儒教の経典「礼記」の礼運篇を出典とし、「天下大同」は人類の理想社会に対する中華民族の願いである。数千年の歴史の実践で作られ伝わってきた中華文明は常に「天下」への思いと「大同」の理想を抱いてきた。天下大同は中華の伝統文化の中で最高の政治的理想であり、人類の運命に対する中華文明の深い関心の表れであり、中華民族が文明間の交流と学び合いを実践する最終目標でもある。
二、相互接続と学び合いが描いた世界文明の華麗な絵巻
いかなる文明も孤立した島ではなく、常に異文化と接触、交流している。世界の歴史の変遷を振り返れば、異なる文明はいずれも、交流と学び合いを繰り返し、長所を取り入れ短所を補うことでこそ前進してきた。
相互接続は人類文明の視野を広げる。文明間の交流と学び合いは出会うことから始まる。シルクロード、ティーロード、香辛料ロードなどの歴史上の交易路はユーラシア大陸の文明国の相互接続を促進し、絹織物やお茶、陶磁器、香辛料などの世界的な流通を促した。琥珀の道は北海、バルト海、黒海、地中海をつなげ、欧州を南北に貫き、さらに東に向かって延び、欧州各国間と欧州・アジア間のモノと文化の交流を推し進めた。大航海時代は世界各地の相互接続を促した。日進月歩の科学技術やグローバル化の怒濤(どとう)の発展が地域同士の距離を縮め、世界文明の進化の歩みを速めた。
交流は人類文明の新しい空間を切り開く。あらゆる文明は発展の過程で、他の文明とのつながり、往来、競争など各種の主観的・客観的な交流により、自らを豊かにし、向上させ、進化させる。人類文明の歴史においてはしばしば、異なる文明間の交流が人類の進歩の一里塚となったケースが見られる。ビザンツ文明は古代ギリシャ・ローマの伝統を受け継ぎながら、建築、医学、芸術など多くの分野で革新を重ねた。近代欧州文明は古代ギリシャ・ローマ文明と中世文明を融合し、政治、経済、社会、科学技術分野のブレークスルーにより、まったく新しい工業文明を創造した。文明間の交流は文明の進歩を促進し、文明史にさまざまなエピソードを残し、生き生きとした世界文明の絵巻をつくり出した。
学び合いは人類文明の成果を豊かにする。人類の歴史を見ると、大きな影響力を持つあらゆる文明は、他の文明の長所を受け入れて発展してきた。8世紀からアッバース朝で起こった翻訳運動は、ギリシャやローマ、ペルシャ、インドの文化を融合させ、アラブ地域でのイスラム黄金時代を切り開き、後世の西欧のルネサンスにもつながった。日本は隋唐時代に遣隋使と遣唐使を繰り返し派遣し、中国文明と深く交流して大化の改新など政治、社会、文化の面における改革の実現を推進した。中国は近代以降、日本から大量の「和製漢語」を導入し、「革命」「社会」「哲学」「経済」「資本」などは現代中国語で頻繁に利用される重要な単語となっている。第2次世界大戦後の欧州諸国は、文化の多様性を尊重した上で、多くの文化の調和的共存と学び合いを強調し、欧州の統合を後押しした。各文明が交流と学び合いを繰り返したことで、人類文明の園では色彩豊かな花々が咲き誇っている。
三、交流と学び合いが文明進歩の原動力引き出す
さまざまな文明は交流と融合、学び合いを通じ、それぞれ輝かしい成果を上げ、互いに認め合い、共生してきた。歴史を振り返ると、交流と学び合いが文明の進歩を促したのは偶然ではなく、交流と学び合いこそが文明進化の本質であり、必然であることが分かる。
文明間の交流と学び合いは異なる文明の多元的共生の客観的要求である。多様な文明は世界の本来の姿であり、人類文明の発展は単一の文明が「独奏」するものではなく、多くの文明が奏でる「交響楽」である。歴史的経験が示すように、各国の歴史文化や社会制度には古くから差異があり、多様性がなければ人類文明もない。すべての国と民族の文明にはそれぞれ独自性があり、文明にはいずれも自らの存在価値がある。異なる文明は平等と尊重を堅持し、傲慢と偏見を捨ててこそ、交流と対話、調和的共生の中で絶えず発展し、強大になることができる。
文明は多彩で平等、包摂的なものであり、平等こそが人類文明間の交流と学び合いの前提である。国や民族の強弱や大小を問わず、すべての思想・文化が認められ、尊重されるべきである。「文明の優越」を叫び、自らの文明が他より高級だと考えるのは、他の文明を尊重しないことであり、人類の文明の進歩を妨げることにしかならない。
成熟した自信のある文明ならば、他の文明が自らの文明と異なるからといって嫌がり、どうにかして改造、同化し、さらには自らの文明でこれを置き換えようとすることはない。歴史が繰り返し証明しているように、文明の差異を強制的になくそうとしても決して成功せず、かえって世界の文明に災難をもたらすことになる。(注4)
文明間の交流と学び合いは各文明が活力を保ち続けるための原則である。文明の生命力は外部世界との交流・学び合いを源泉としており、長期的に自らに閉じこもった文明は必ず衰退する。どの国、どの民族の社会土壌から生まれた文明であっても、流動的で開放的なものである。これは文明の伝播・発展の重要な法則と言える。長期的な進化の過程で、中華文明は他の文明との交流から豊かな栄養を得て、革新しながら発展していくと同時に、人類文明の進歩にも大きく貢献した。(注5)
歴史が教えるように、民族は内部にとどまっていた交流が外部へと向かうことでこそ、地理的な閉鎖性や束縛を乗り越え、世界的視野を形成、拡大し、人類文明の進化の中でいつまでも活力を保ちながら前進することが可能になる。
文明間の交流と学び合いは世界文明の共同繁栄のための必須の道である。人類の歴史を振り返れば、閉鎖と隔絶、孤立がしばしば生産力の立ち遅れをもたらす一方、開放と交流、協力が先進的な生産力に結びついていることが見て取れる。ナイル川やユーフラテス川、ティグリス川、ガンジス川、黄河、長江などの大河がいずれも偉大な文明を生み出した理由の一つは、人類史の初期に河川が移動、交易、交流の「高速道路」の役割を果たし、頻繁な精神的交流が思想、知恵、文明を形成し、初期文明の繁栄に共通の基盤を築いたことだと考えられる。
第2次世界大戦後、経済のグローバル化は国際分業の深化、世界市場の拡大、技術拡散の加速を促し、世界の資本、人材、情報、技術などの生産要素の配分を改善し、人類の往来と文明の交流はますます緊密になり、人類文明の発展はかつてない高みに達した。
文明間の交流と学び合いは世界文明の調和と共同繁栄を促進する。これは世界の文明史の必然であると同時に、21世紀の全人類にとっての共通の願いでもある。
第二章 人類文明の発展が直面する困難
人類社会が直面している試練は、究極的には文明発展が直面している試練である。現代において、人類社会は経済、科学技術、文化などの面で優れた成果を上げる一方、複雑で目まぐるしく変化する新たな問題と矛盾を世界中に抱えている。人類文明は経済の鈍化、政治の混乱、文化の摩擦が織りなす現実的な困難に陥り、重要な岐路に差し掛かっている。
一、文明発展の原動力を弱める経済の鈍化
経済発展は文明の進歩を支える原動力である。世界経済は現在、回復が鈍化し、原動力が弱まり、分配がバランスを欠き、リスクや試練が多発している。文明を発展させる原動力が抑制され、人類の未来は数知れぬ危険に直面している。
世界経済の原動力が弱まり、深層の構造的矛盾が露呈している。2008年の世界金融危機、さらには新型コロナウイルスの世界的流行以降、世界経済は低迷し、市場の需要が冷え込み、製造業の生産活動も萎縮している。国際通貨基金(IMF)は25年1月に発表した世界経済見通しで、25年と26年の世界の実質成長率はいずれも3・3%で、00~19年の平均3・7%を下回ると予測した。中期的には下振れリスク、短期的にはまちまちで不確実なリスクに直面しているとした。(注6)
世界経済はさらに、消費、雇用、インフレなどの面でも構造的な矛盾と二極化が目立ち、成長を妨げると同時に、社会不安や紛争や環境ストレス、技術ギャップなど一連の問題をもたらしている。これらの問題は複雑に絡み合い、国家間の対立や衝突をさらにエスカレートさせ、文化の発展と文明の交流を阻害している。
世界経済の発展がバランスを欠き、貧富の格差が拡大している。グローバル化が進行する中、各国の経済は互いに依存し影響し合い、複雑で緊密なネットワークを形成している。だがこのネットワークが常に調和と均衡を保っているわけではなく、世界経済の不均衡はますます進んでいる。ある研究によると、世界の貧富の格差は縮まるどころか広がっており、世界人口の60%に当たる約50億人がより貧しくなっているという。(注7)世界銀行のデータでは、1日当たりの生活費が2・15ドル未満の絶対的貧困の状態にある人は約7億人、6・85ドル未満の中度の貧困にある人は約35億人に上っている。(注8)
貧富の二極化は文明発展の不均衡につながる。貧富の格差が日増しに広がる中、経済基盤が強大で技術の発達した一部の国は文明発展における優位に立つようになり、言語やライフスタイル、価値観の面でも影響力を増す。逆に一部の発展途上国は経済力を欠き、その文化も脇へと追いやられていく。
世界経済の発展にリスク・試練が多発し、予測不可能性が増している。世界経済の構造はここ数年で著しく変化し、国際政治の混乱や自然災害の頻発、なかなか収まらない感染症の影響の下、経済の予測不可能性が大きく高まっている。グローバルサプライチェーンは脆弱(ぜいじゃく)さが露呈し、インフレ圧力が拡大し、エネルギー・資源価格は激しく上下し、保護貿易主義が台頭、金融市場は大きく変動し、新興市場では債務圧力が増大している。
IMFのゲオルギエバ専務理事は25年1月、米新政権の経済政策、特に貿易政策の方向性が、25年の世界経済により多くの不確かさをもたらすだろうと表明した。(注9)
世界経済の発展にはこれからも幾多の試練と衝撃が待ち受けている。「安全感」の欠如は、助け合って困難を共に乗り越える行動を妨げるだけでなく、文明間の交流と学び合いの意欲を著しくそぐことにもなる。
二、文明の発展基盤を脅かす政治環境の混乱
安定的で開放的な政治環境は文明発展の基盤であり、異なる文明間の交流と学び合いの条件を作り出す。混乱した政治環境は社会の安定を破壊するだけでなく、文明間の相互作用と融合を妨げ、文化の衰退と発展の停滞を招く。平和と発展は今でも時代の主旋律だが、世界は決して平和ではなく、戦争の「ダモクレスの剣」は依然として人類の頭上にぶら下がっている。(注10)
一部の大国が責任を果たさず、グローバルガバナンスの秩序が失われている。グローバルな問題がますます複雑化し、さまざまな試練が急増する中、グローバルガバナンスのプラットフォームはしばしば「道具化」「武器化」され、有効性を著しく落とし、多国間メカニズムが衝撃を受けている。グローバルガバナンスのロジックはより消極的なものとなり、時代の要求からますます遅れをとり、特定の問題では機能不全に陥っている。一部の大国は自らの利益に基づいて単独主義と保護主義を推し進め、グローバルガバナンスへの責任を軽視あるいは回避している。さらには経済制裁や軍事介入などの手段を通じ、国際関係の対抗と分裂を激化させ、国連憲章の目的と原則を核心とする多国間主義の国際秩序を著しく損ない、世界を無秩序の渦へと引きずり込んでいる。
こうした状況は、各国文明の交流のルートを遮り、異なる文明の開放と対話を妨げ、グローバル協力の自信を弱め、文明間の学び合いの土台を弱め、文化の相互信頼と共通の価値観に基づく「共同体」の形成をますます困難にしている。
地域衝突と局地戦争が続き、世界の地政学的危機が頻発している。「見わたしてみれば、平和は四方から敵を受けている。」(注11)地域的な衝突と局地的な戦争が相次ぎ、ロシア・ウクライナ衝突や中東情勢は外部にも影響している。多くの人々が戦火に苦しみ続けており、世界平和を守ることは依然として重い課題である。
非政府組織(NGO)の武装紛争位置事件データセット(ACLED)が発表した報告書によると、24年の世界の政治的暴力事件は前年比25%増加し、世界の8分の1の人々が紛争に直面、22万人以上が命を落とした。(注12)英国のシンクタンク、国際戦略研究所(IISS)が発表した報告書では、武力紛争の強度も上昇しており、調査期間の死者数は前年同期比37%増加し、紛争1件当たりの死者数も約17%高まった。(注13)
グテレス国連事務総長は「新たな平和への課題」で、世界は武力紛争の性質の変化、武力紛争以外の暴力の継続、新しい技術の武器化などのリスクに直面していると強調した。(注14)地域衝突と局地戦争は社会の安定を継続的に破壊し、資源の消耗と人道的危機を招いており、人類は再び戦争に陥る潜在的なリスクに直面し、人類文明の未来は暗雲に覆われていると言える。
テロの脅威が高まり、世界の安全保障秩序に挑戦を投げかけている。テロの地理的分布は変わりつつあり、もはや少数の国や個別の地域だけでなく、世界的に拡散を加速させている。テロ攻撃が頻発し、暴力と過激思想は情報技術を通じて絶えず拡散し、世界の安全秩序に厳しい挑戦をもたらしている。
オーストラリアのシンクタンク、経済平和研究所が発表した「グローバルテロリズムインデックス2024」によると、テロは依然として深刻な世界的脅威であり、2023年のテロによる死者数は前年比22%増加して8352人に上り、2017年以降の最高水準となった。(注15)
テロリズムの拡大は人類社会の安全と安定を破壊し、文明間の正常な交流と協力を妨げ、文化の多様性と価値観の包括性に深刻な脅威をもたらし、世界の文明間の交流と学び合いの土台をますます脆弱にしている。
非伝統的な安全保障上の脅威が日増しに高まり、人類の生存空間を脅かしている。非伝統的な安全保障上の脅威は経済、科学技術、金融、文化、社会、環境など各分野に及び、対抗の激化、衝突の上昇などの特徴を示している。エネルギーや食糧、公衆衛生などの危機が激化し、基礎的な生存の保障を弱体化させ、社会の持続可能な発展を制限している。サイバー攻撃や情報漏洩は信頼と協力の土台を侵食し、技術進歩と文明交流を妨げている。環境汚染や地球温暖化は生存環境を破壊し、人類共通のふるさとを脅かしている。これらのリスクは世界の多極化、経済のグローバル化、社会の情報化、文化の多様化の発展を著しく阻害している。
リスクのグローバル化の時代にあっては、ある分野で安全上の懸念が発生すれば、単一リスクが複合的な危機に転換したり、局部的な問題が全体に波及し、各国の間に幅広く影響を与える可能性がある。人類文明が協力と協調を強化できなければ、リスクと共存しなければならない時代に共同発展と進歩を実現することは難しくなる。
三、共通認識を崩壊させる世界的な文化摩擦
グローバル化は世界各地の文化交流を促進している。しかし、文明の融合や衝突が生じる中、価値観の対立は依然として存在し、文化的多様性は消滅の危機に陥り、保護主義、孤立主義、ポピュリズムが台頭、人類社会は思想の分断や共通認識形成の困難という脅威に直面している。
価値観の対立は依然として存在し、文明の優劣や衝突を唱える議論が再び頭を持ち上げている。一部の国は長期にわたり、自国の文化的価値観を基準に他国の文化を軽視、さらには干渉し、文化的な制裁や浸透といった強制的な手段または隠れた影響力を通じ、他国の社会構造やイデオロギーを変えようとしてきた。このような覇権主義的な「文化輸出」は、相手国の文化の独立性や連続性を侵食するだけでなく、各国の相互理解やコミュニケーションの基本的な道を分断し、国家間の交流や対話に壁を設けることにもなる。
文化的多様性は深刻な影響を受け、世界の文明は「標準化」の落とし穴に陥っている。グローバル化が進行する中、あらゆる文明、あらゆる国が世界の潮流に巻き込まれており、孤立して進むことはできない。異なる文化や価値観のぶつかり合いと融合は本来、人類文明の進歩を促進させる力になるはずである。だが優位にある文化の侵入で、多くの民族や国家で文化的なニヒリズムが広がり、独自の文化は近代化の中で徐々に同化または周縁化され、文明間の交流と学び合いも画一的なコピーへと変わってしまう。
一部の国と民族はこの過程で、自らの文化的主体性を失い、自国の実情にかなった発展の道を見つけることが困難になっている。発展は行き詰まり、動乱が頻発し、文明の存続が脅かされている。世界文明の多様性が損なわれ、グローバルな文明は「標準化」の落とし穴に陥る危険にさらされている。
反グローバル化の思潮が高まり、文明対話の基盤を揺るがしている。近年まん延している反グローバル化の思潮は、政治や経済の分野だけでなく、文化の領域にも及んでいる。多元的で多面的な対立や衝突が重なり合い、文明の競争と衝突がますます激化している。保護主義、孤立主義、ポピュリズムといった思潮の台頭は、グローバルな文化協力メカニズムを損ない、異なる文化間の誤解、隔絶、対抗が深まっている。
文明の伝承・革新・発展には、開放的で包摂的な姿勢が必要である。文明間の差異を脅威と見なし、それによって対立することは、文明間の交流に隔絶を生み出し、対立や衝突を深め、共通認識を損ない、文明の発展と進歩を妨げることになる。
第三章 文明間の交流と学び合いのための「中国の案」
「文明とは実践のことである。」(注16)100年に1度と言われる世界的な変動が加速的に進む中、隔たりと衝突を広い度量で乗り越え、人類の運命を大きな心で思いやる必要がある。発展のギャップや平和の赤字、文明の衝突など世界的な課題を前に、中国は平等、学び合い、対話、包摂の文明観を堅持し、一貫して世界平和の建設者、グローバル発展の貢献者、国際秩序の擁護者、公共財の提供者となってきた。世界と交流し学び合う中で、発展に新たな原動力をもたらし、ガバナンスに新たな知恵を提供し、文明に新たなビジョンを描き、国際社会と共に人類運命共同体の構築に努めている。
一、世界の発展を後押しし、文明進歩の土台を固める
発展は、人々が求めるより良い生活のよりどころであり、人類文明の物質的基礎、あるべき道である。中国は発展のメリットを世界と持続的に分かち合い、発展に力強い原動力をもたらし、人類文明の進歩の土台をしっかりと固めてきた。
自らの発展で世界の発展を後押しする。「世界が良くてこそ中国も良くなる。中国が良ければ世界もより良くなる。」(注17)中国は70年以上にわたり、経済の急速な成長と社会の長期的な安定という「二つの奇跡」をつくった。自らの発展問題をしっかりと解決することで、中国は世界の発展に大きく貢献した。
世界経済の発展に力強い原動力を提供する。世界経済の成長に対する中国の寄与率は長年にわたり約30%に上り、世界の経済成長の大きな動力源となっている。世界の経済構造における中国の「エンジン」「バラスト(重し)」としての役割はますます際立ちつつある。米ブルームバーグはIMFの経済見通しに基づく推算で、中国は2024~29年の世界経済成長に対する最大の貢献者となり、寄与率は約21%になると予測している。(注18)
巨大市場の利益を世界と分かち合う。中国式現代化が急速に進み、14億人以上の中国人全体が現代化社会へと入ったことで、既存の先進国を全て合わせた規模に相当する市場が生まれた。中国は中国国際輸入博覧会、中国国際消費財博覧会などのプラットフォームを通じ、中国の巨大市場を共有する多くのチャンスを各国に提供している。IMFの分析によると、中国の経済成長は世界のほかの地域に積極的な波及効果をもたらしており、中国の経済成長率が1ポイント上昇するごとに、ほかの地域の成長率も平均0・3ポイント上昇するという。(注19)
世界経済の成長に新たな理念を提供する。中国は自らの質の高い発展の実践の中で、「新たな質の生産力」(科学技術イノベーションが主導し、質の高い発展を促す生産力)という重要理論を創出し、制度の革新と生産関係の変革を推進した。新たな質の生産力はより多くの発展チャンスを国際協力パートナーに提供するとともに、その新たな経済理論と実践方法によって人類社会のより優れた経済成長方式の探求にヒントと参考例をもたらしている。
シンガポールのリー・シェンロン前首相が述べたように、中国の経済成長は各方面から見て、中国だけでなく全世界に大きなメリットをもたらしている。(注20)
グローバルな問題を解決する「中国の案」を提供する。中国は急速な発展と国際的影響力の著しい向上に伴い、世界の課題に全面的かつ深く関与するようになり、思想、理念、行動の各面から中国の解決案を提供している。
グローバルな貧困削減の事業は国際的な社会経済ガバナンス体系の重要な一部となっている。中国は自国で絶対的貧困の全面的解消を実現した後、一貫して自国の発展と世界の共同発展を緊密に結びつけてきた。中国は現在、多くの発展途上国を支援し、6千余りの民生プロジェクトを実施している。中国が開発したハイブリッド米は五大陸の70近くの国で栽培され、原木でなく草本植物を用いてキノコを栽培する「菌草」技術は100カ国以上に普及、アフリカの途上国などを支援する農業技術モデルセンターは30カ国以上で設立、運営されるなど、貧困削減協力プロジェクトは貧困に苦しむ多くの農村を豊かになる道へと導いている。
気候変動への対応は人類の前途・運命にかかわる。中国は2020年、二酸化炭素(CO2)排出量の30年までの減少転換、60年までの実質ゼロを目指す「双炭」目標を宣言した。最大の発展途上国である中国は、CO2排出量を世界で最も大幅に減少させ、排出量のピークアウトから実質ゼロを世界最短で実現しようとしている。目標実現のため、中国は世界最大規模の炭素市場を構築。水力発電、風力発電、太陽光発電、バイオマス発電の設備は世界トップをキープし、新エネルギー車(NEV)の生産量は10年連続で世界トップとなっている。
人類が共に発展するための公共財を提供する。中国は、世界の発展における役割がますます重要になる中、中国の知恵を体現し、全人類の発展に奉仕するより多くのグローバル公共財を打ち出している。
平和協力、開放・包摂、学び合い、互恵ウィンウィンのシルクロード精神を堅持する「一帯一路」構想は、すでに国際社会が幅広く歓迎するグローバル公共財、協力プラットフォームとなっている。現在150余りの国、30余りの国際組織が「一帯一路」共同建設協力文書に署名している。
「スモールヤード・ハイフェンス」(小さな庭に高い壁を設ける=限定された先端技術の厳重管理)やデカップリング(切り離し)、サプライチェーンの分断といったグローバル化に逆行する傾向が強まる中、中国は2021年に「グローバル発展イニシアチブ」を打ち出した。イニシアチブに応える国や地域はますます増え、八大重点分野で30以上の協力プラットフォームを構築、200億ドル近くの資金を動員し、1100余りに上るプロジェクトは国連の持続可能な開発目標17項目をすべてカバーしている。
二、世界平和を促進し、文明共存の秩序を守る
やせた土地に平和の大木が育つことはなく、戦火が燃え盛る中で文明の実りは生まれない。人に空気が必要で、万物の成長に太陽の光が必要であるように、世界は平和を必要としている。「平和の赤字」がますます際立つ現在、中国は共同、総合、協力、持続可能の安全観を提唱し、自ら一貫して平和発展の道を堅持するだけでなく、世界の平和促進と戦争終結のため奔走し、文明の平和共存と包摂、交流のためのプラットフォーム構築と条件創出に努力している。
一貫して平和的発展の実践者になる。中国は平和的発展を憲法と執政党の党規約に盛り込み、国家意志へと高めた唯一の大国である。関係国との領土主権と海洋権益をめぐる争いを交渉・協議の方式で処理することを堅持し、国境を陸で接する14カ国のうち12カ国との陸上国境問題を平和的に解決している。
中国はまた、国連安全保障理事会常任理事国の職責と使命を忠実に履行しており、国連分担金と平和維持活動(PKO)分担金は国連加盟国で2番目に多く、PKO部隊への人員派遣数は安保理常任理事国で最も多い。中国は30年以上にわたり、延べ5万人余りの平和維持人員を派遣し、20余りの国と地域の国連平和維持活動に参加させ、国連平和維持の重要な力となっている。(注21)
責任ある大国の役割を積極的に発揮する。平和で穏やかな未来をつくり出すためには、大国が率先して模範となり、地政学的な小グループや紛争・対立の小ブロックを超え、世界の団結の推進装置となり、世界平和の安定を促す重しにならなければならない。
世界各地で起こる国際関係上の問題に対し、中国は責任ある大国の役割を一貫して発揮してきた。ロシアとウクライナの衝突に対しては、中国は仲介のため繰り返し特使を派遣し、戦争終結のための共通認識の形成を促し、和平交渉の橋渡しに努めた。パレスチナとイスラエルの衝突がヒートアップしてからは、中国は早期の停戦と戦争終結を呼びかけ、人道支援を強化、パレスチナ各派の北京での和解対話開催を促した。周辺地域の問題でも、中国は建設的な役割をたゆまず発揮し、朝鮮半島問題の政治的解決を推進、ミャンマーの各関係者による雲南省昆明市での停戦協定署名を促した。
グローバルセキュリティーガバナンスの変革を先導する。中国は国連憲章の目的と原則を基礎とする国際関係の基本ルールを順守し、国際法を基礎とする国際秩序を守っている。これを土台として、中国はグローバルセキュリティーイニシアチブを提起し、着実な行動と実践を推進、グローバルセキュリティーガバナンスのさらなる改善のため中国の知恵を提供している。
中国は国際事務における国連の核心的地位を断固として支持し、国連安保理に対する必要で合理的な改革を行い、安保理の権威と効率を高め、世界的な脅威と挑戦に対応する能力を強化することを支持する。中国は上海協力機構(SCO)、アジア相互協力信頼醸成措置会議(CICA)メカニズム、東アジア協力メカニズムなどの枠組みの下で安全保障分野の交流・協力を積極的に推進し、北京香山フォーラムや中国・アフリカ平和安全保障フォーラムなど一連の国際安全保障交流・対話プラットフォームを持続的に構築している。
非伝統的な安全保障をめぐり、中国は新興分野の国際安全保障ガバナンスを引っ張っている。生成人工知能(AI)を規制する法律を世界で初めて公布し、「グローバルAIガバナンスイニシアチブ」「AIグローバルガバナンス上海宣言」などの文書を発表、中国は長年のAIガバナンス経験を世界と共有し、世界のAIガバナンスに一連の積極的な貢献をしている。
三、対話・交流をけん引し、文明協力の空間を広げる
多様性は人類文明の本来的な姿であり、文明は多様であるから交流する。異質な文明の交流が直面する挑戦に対し、中国はグローバル文明イニシアチブを打ち出し、世界文明の多様性の尊重、全人類の共通価値の発揚、文明の伝承と革新の重視、国際的な交流と協力の強化を共に提唱し、「異なる文明がいかに付き合うか、人類文明はどこに向かうか」という重要な質問に答えた。
文明対話のプラットフォームを構築する。交流はそれ自体、異なる文明の存在価値と意義を肯定することを意味する。中国は異なる文明と異なる発展モデルの交流と対話の促進を堅持し、競争と比較の中で長所を取り入れ短所を補い、交流と学び合いの中で共に発展し、文明間の交流と学び合いを各国人民の友情を増進する懸け橋、人類社会を進歩させる原動力、世界平和を守る絆にしている。
中国はここ数年、アジア文明対話大会(CDAC)や中国イタリア文化観光年、中国ギリシャ文化観光年、中国スペイン文化観光年などを開催し、主要新興国からなるBRICSの文化相会議など16の多国間交流協力メカニズムと25の2国間協力メカニズムの発展を絶えず推進、文明対話の空間を積極的に開拓してきた。(注22)
第78回国連総会は2024年6月、毎年6月10日を「文明間対話の国際日」と定める中国が提出した決議を全会一致で採択した。国際社会が「文明間対話の国際日」の制定を一致して支持したことは、グローバル文明イニシアチブが時代の潮流に沿い、時代のニーズに合致したものであることを十分に示している。
文明の伝承・革新を共同で推進する。人類文明の発展にとって伝承と革新は、車の両輪、鳥の両翼のようにどちらも欠かすことのできないものである。継承しながら発展し、止揚しながら革新する弁証法的統一の中でこそ、文明は持続的な生命力を保つことができる。5千年以上の文明を持つ中国は、自国の文化遺産の保護、伝承、利用の経験を世界と共有し、文化遺産分野の国際協力を積極的に推進、考古学調査、歴史旧跡の保護と修復、世界文化遺産の申請と管理、博物館の展示交流などの分野で多くの国と幅広く実のある協力を展開している。
中国は複数回にわたって専門チームを派遣し、カンボジアのアンコール遺跡、モンゴルのボグドハーン宮殿博物館などの重要遺産保護プロジェクトの展開を支援してきた。ケニアやバングラデシュ、エジプト、ウズベキスタンなど十数カ国とは共同考古学調査、セルビアなどの国とは世界文化遺産申請の技術協力を展開し、世界文化遺産の保護事業を力強く支持、全人類の宝である文化遺産を共同で守っている。
中日国交正常化50周年にあたり、中国故宮博物院は日本で特別デジタル展「故宮の世界」を開催し、仮想現実(VR)や8K超高精細3次元映像などの技術を活用、故宮文化財の美しさを日本の観客に生き生きと示した。中華の優れた伝統文化の創造的転化と革新的発展を推進する中国の実践は、文明の伝承と革新における中国の知恵を世界に示している。
民間の人文(人と文化)交流を促進する。文明間の交流と学び合いには国の力強い指導と支持が必要だが、その根幹は常に人民にある。中国はグローバル文明イニシアチブの実践メカニズムを積極的に構築し、海外への進出と海外からの導入を持続的に推進、国際人文交流・協力を全方位的に拡大している。
国際観光はグローバルな文化交流現象であり、世界各国の異なる文明の交流と融合を大いに促進する。中国はビザ免除の対象国を持続的に拡大し、一方的なビザ免除を38カ国に試行するとともに、海外観光客により便利な支払い・言語・移動環境を提供している。2024年、中国にビザなしで入国した外国人は延べ2011万5千人に上り、前年の2・1倍に増えた。
「5年間で5万人の米国の青少年を交流と学習のため中国に招く」(注23)「3年間でフランス人留学生を1万人以上に増やし、欧州の青少年による訪中交流規模を倍増させる」(注24)。国内外の人文交流を促進するため中国が発表した一連の重要なイニシアチブが次々と実施され、多くの欧米の青少年が交流と学習のため中国を訪れ、友情の種を芽生えさせている。日増しに密接になる人文交流は一つ一つは細い流れかもしれないが、集まって文明交流の大河を形成している。
第四章 文明間の交流と学び合いのグローバルな力の結集
人類社会は現在、多くの危機と試練に直面し、再び歴史の岐路に立たされている。世界はいかなる状況にあるのか。われわれは何をなすべきか。人類はどこへ行くのか。われわれは人類の未来と運命にかかわる重要な問題に答えることを迫られている。人類が直面しているのは、一国だけでは解決のしようがないかつてない試練である。人類の運命がこんなにも一つにつながったことはなく、人類文明がこれほど交流と学び合いを必要としたこともない。グローバルな力を結集し、グローバルな行動、対応、協力を展開し、文明交流のさらなる空間を切り開き、グローバルガバナンスにより新たな活力を注ぎ込み、人類全体の利益の実現のためにより多くの貢献をしなければならない。
一、国際交流・協力の強化と文明交流の新たなビジョン
世界には200以上の国と地域、2500以上の民族と多様な宗教がある。人類文明の多様性は多彩な世界を作り出し、多様性は交流をもたらし、交流は融合を育み、融合は進歩を生んだ。西洋文明と非西洋文明は異なる道を選び、異なる文明の間には依然として精神的な溝と交流の障壁が存在するが、文明の交流と文化の融合は常に民心の向かうところ、大勢の赴くところである。
二国間と多国間の交流・協力を深める。文明間の交流と融合は、国家間の経済貿易協力、政治的相互信頼、文化交流、民心の通じ合い、民意の共通認識、国際関係の改善を促進する上で、基礎的かつ持続的な役割を果たしている。各国は文明進歩の法則を把握し、歴史の進む方向をはっきりと見極め、時代の発展の潮流に順応し、「勝つか負けるか」「勝者総取り」の古い考えを捨て、ウィンウィンやマルチウィンの新たな理念を掲げ、互いの主権と文化伝統を尊重し、二国間と多国間の交流・協力を深め、規模や制度、文化の異なる国同士の文明交流により多くの模範を作り出さなければならない。
国際人文交流・協力を広く展開する。国の交わりは民の相親しむにあり、民の相親しむは心の相通ずるにある。世界は新たな激動の変革期に入っている。人類は文化的な偏見や誤解などの問題を克服し、開放・包摂の精神を堅持し、より深いレベルの相互理解と協力を推進、大同につき小異を残し、長所を取り入れ短所を補い、「各美其美、美美与共」を実現する必要がある。特に国際人文交流・協力を強化し、文化、芸術、スポーツ、教育などの分野の協力を持続的に広げ、世界の文化交流と文明対話の協力ネットワークを構築し、各国の人々が出会い、知り合い、親しむ道を切り開き、人類文明の革新的発展を共同で推進する必要がある。
「各国人民が心を一つにして協力し、圧力を原動力に変え、危機をチャンスにし、対抗をやめ協力し、独占をウィンウィンに代替する」(注25)ことは、必ずや人文交流と文化融合の道を開き、民心の通じ合う新たな局面をつくり出すだろう。
二、グローバルガバナンスの変革と文明発展の新秩序
世界では戦乱や衝突により多くの国で人道的危機が起き、食糧とエネルギーの安全保障は厳しい課題に直面し、経済グローバル化は逆流に遭遇している。世界は平和か戦争か、繁栄か衰退か、団結か対立かの歴史的な選択を迫られている。公正で合理的な国際秩序を構築し、グローバルガバナンス体制を改善することで初めて、文明の正しい発展の道を歩むことができる。
平和的発展の道を共に歩み、グローバル安全保障ガバナンスを改善する。戦火は依然としてまん延し、災難が終わることはなく、不公正や分裂が傷跡をもたらし、緊張や不信が拡大している。動乱する世界において、いかなる国も自国のみで絶対的な安全を図ることはできず、他国の動揺から安定を得ることもできない。世界が動揺しているからこそ、平和、発展、協力、ウィンウィンの旗を高く掲げる必要がある。(注26)各国は国際紛争の原因を根源から解消し、文明間の交流を通じ、人々の心の中で平和の理念の種を芽生えさせ、「平和の森」を育てなければならない。共同、総合、協力、持続可能の安全保障観を実践し、国家間の対立や紛争の平和的手段による解決を促し、変動する時代により多くの安定性と確実性をもたらし、世界の持続的な平和と発展を実現する必要がある。
幅広く利益をもたらす包摂的な経済グローバル化を推進し、グローバル経済ガバナンスを改善する。経済グローバル化で貿易の繁栄、投資の円滑化、人々の大規模移動、技術の急速な発展が進んだが、多くの課題や弊害も生まれ、グローバルな産業チェーンや価値チェーン、サプライチェーンを破壊する逆流が出現している。困難な時期ほど確固たる信念が必要になる。われわれは幅広く利益をもたらす包摂的な経済グローバル化を共に推進し、各国や各層の利益につなげることを目指すべきである。(注27)各国はオープンな政策姿勢を堅持し、保護主義や障壁の構築に断固反対し、公正で合理的かつ透明性のある国際経済・貿易ルールを構築、オープンで包摂的かつ非差別的な国際経済協力環境を作り上げ、経済グローバル化と世界経済成長の成果を各国の人々が享受できるようにする必要がある。
中国には「和羹之美、在於合異(あつものの美味は異なるものを合わせることにある)」という言い方がある。人類は苦楽を共にし、困難を共に乗り越えなければならない。どのような国際秩序やグローバルガバナンス体制が世界にとって、各国の人々にとって良いのかは、各国民が話し合うことであり、一国または少数者が決めることではない。(注28)グローバルガバナンス体制の変革は国際社会全体の課題であり、「共商、共建、共享(共に話し合い、共に建設し、共に分かち合う)」原則を堅持し、改革の提案を各国の合意へと転化させ、一致団結した行動を形成することが重要である。(注29)
三、人類全体の利益の実現と文明の美しい故郷の構築
人類は一つの地球村に住み、同じ船に乗っている。共通の課題に立ち向かい、すばらしい未来を切り開くには、文明の力が不可欠であり、行く先を照らす共通の価値・理念が必要となる。各国は人類運命共同体の構築を共に推進し、人類全体の利益を実現しなければならない。
各国の歴史、文化、制度、発展レベルは異なっても、それぞれの国民は皆、平和、発展、公平、正義、民主、自由という人類共通の価値を追求している。(注30)各国の人々にとって平和と発展は共通の事業であり、公平と正義は共通の理想であり、民主と自由は共通の追求である。これら六つの要素は、個人、社会、国家、世界を多層的に貫き、異なる文明間で共通する価値の本質と実現手段を示しており、人類の意志と力を結集し、グローバルな課題に共に対応し、人類全体の利益を実現する基盤となる。
人類の暮らす世界は異なる文化、民族、肌の色、宗教、社会制度で構成され、各国の人々は分かちがたく結びつき運命共同体を形成している。(注31)人類運命共同体理念の構築は、平和や発展、安定への願いを最大公約数として各国民を結集し、文化的背景や発展レベルの異なる国家間で最大の同心円を描き出す。この理念の推進は、地球に住むあらゆる人々をより密接に結び付け、多元的な文明共同体を形成し、世界の人々が文明の光に浴し繁栄する未来を共に創り上げることにつながる。
人類共通の価値を発揚し、人類運命共同体の構築を推進することは、人類文明の新たな形態への思考を促し、人類の発展と進歩の行方を正しく把握させ、グローバルな文明の強大な合力を形成し、人類社会を明るい未来へと導くだろう。
終わりに
文明の大河は脈々と流れ、人々の心を動かし続けている。
実践が証明しているように、文明の交流と融合は歴史の理性に合致した道である。原始社会から農耕社会が生まれ、産業革命が起こり、情報化社会となるまで、交流と学び合いは人類文明の発展過程を貫き、各国・各民族の進歩と常に共にあった。各文明を互いに輝かせ、世界をよりすばらしくするために歩まなければならない道と言える。
中華文明は古くから開放・包摂で知られ、外部の要素を取り入れることで新たな活力を生んできた。中国は自らの悠久で輝かしい文明の歴史に立脚し、「各美其美」で世界を認識し、「美人之美」で世界と向き合い、「美美与共」で世界と手を携え、文明間の交流と学び合いを進める重要な力になっている。
歴史の発展と社会の繁栄、人類の進歩にはいずれも文明の栄養とけん引が欠かせない。
現代において、人類の世界的な交流はかつてなく深く広くなり、各国のつながりと相互依存はかつてなく頻繁で緊密になっている。異なる文明がぶつかり合い融合する中、交流の障壁を破り、対話を推進し、調和共存を図ることが、過去のいかなる時期よりも必要となっている。
対話が増えるだけ対抗が減り、包摂的であるほど隔たりがなくなる。互いに尊重しながら共に発展し、小異を残して大同につき、協力ウィンウィンを図ることでこそ、開放的かつ包摂的な文明世界を築き、異なる文明から知恵と栄養をくみ取り、文明の革新と成長を実現し、さらには文明によって世界と人類に幸福をもたらし、人類全体の利益を実現することができる。
正しい道を共に歩めば、必ず成果を上げることができる。文明間の交流と学び合いを進め、各国が協力し合うことにより、平和の火を後の世代に受け継ぎ、絶えることのない発展の原動力を生み出し、文明の鮮やかな光を輝かせ、人類文明のさらに明るい未来を共に作り出そう。
リポート作成者について
リポート課題チームは、傅華(新華社社長、新華社国家ハイエンドシンクタンク学術委員会主任)がリーダー、呂岩松(新華社編集長)が副リーダー、任衛東(新華社副編集長)が執行副リーダー、劉剛、崔峰、馮武勇、劉華、傅琰、陳剛、張亮、秦彦洋、竇書棋、閔方正、伍暁陽、范世輝、熊聡茹、楊一苗、郭洪海、程征、王会、羅婷がメンバーを務めた。
(注1)習近平『論党的宣伝思想工作(党の宣伝思想活動を論じる)』(中央文献出版社、2020年版)406ページ。
(注2)銭穆『中国文化史導論』(三聯書店、1988年版)162ページ。
(注3)費孝通「美美与共と人類文明(上)」(『群言』、2005年第1期)。
(注4)習近平『在記念孔子誕辰2565周年国際学術研討会暨国際儒学聯合会第五届会員大会開幕会上的講話(孔子生誕2565周年記念国際学術シンポジウムおよび国際儒学連合会第5回会員大会開幕式での講話)』(人民出版社、2014年版)9ページ。
(注5)同上、10ページ。
(注6)International Monetary Fund. World Economic Outlook, January 2025, https://www.imf.org/en/Publications/WEO/Issues/2025/01/17/world-economic-outlook-update-january-2025.
(注7)Oxfam International. Inequality Inc. January 2024, https://www.oxfam.org/en/research/inequality-inc.
(注8)世界銀行「世界人口の半分が貧困から脱却するには1世紀以上かかるかもしれない」(2024年10月15日)〔https://www.shihang.org/zh/news/press-release/2024/10/15/ending-poverty-for-half-the-world-could-take-more-than-a-century〕
(注9)新華社「米国の貿易政策は世界経済により大きな不確実性をもたらす IMF専務理事」(2025年1月11日)
(注10)習近平『論堅持推動構建人類命運共同体(人類運命共同体の構築推進の堅持を論じる)』(中央文献出版社、2018年版)248ページ。
(注11)新華社「歴史の岐路に立つ――2024年の世界を振り返って」(2024年12月29日)。
(注12)Armed Conflict Location & Event Data (ACLED). Conflict Index: December 2024, December 2024, https://acleddata.com/conflict-index/.
(注13)The International Institute for Strategic Studies (IISS). The Armed Conflict Survey 2024: Editor’s Introduction, December 2024, https://www.iiss.org/publications/armed-conflict-survey/2024/editors-introduction/.
(注14)国連「新たな平和への課題」(2023年7月)4~5ページ。
(注15)Institute for Economics & Peace. Global Terrorism Index 2024: Measuring the Impact of Terrorism, February 2024, http://visionofhumanity.org/resources.
(注16)『マルクス=エンゲルス全集(第三巻)』(人民出版社、2020年版)536ページ。
(注17)習近平『建設開放包容、互聯互通、共同発展的世界――在第三届「一帯一路」国際合作高峰論壇開幕式上的主旨演講(開放・包容、相互連結、共同発展の世界を建設する――第3回「一帯一路」国際協力サミットフォーラムでの基調演説)』(人民出版社、2023年版)5ページ。
(注18)新華社「向こう5年の世界成長への貢献、中国がG7全体上回る ブルームバーグ」(2024年4月20日)。
(注19)新華社「外交部報道官、国際機関による中国経済成長見通しの相次ぐ上方修正にコメント」(2023年12月21日)。
(注20)新華社「中国が良くなることで世界が良くなる――新中国70年の世界貢献における歴史的ロジック」(2019年6月27日)。
(注21)中国国務院新聞(報道)弁公室「人類運命共同体を共に構築する:中国の提案と行動」(2023年9月)。
(注22)中国国務院新聞(報道)弁公室「人類運命共同体を共に構築する:中国の提案と行動」(2023年9月)。
(注23)習近平『匯聚両国人民力量 推進中美友好事業――在美国友好団体聯合歓迎宴会上的演講(両国人民の力を合わせ中米友好事業を推進しよう――米友好団体合同歓迎レセプションにおける演説)』(人民出版社、2023年版)8ページ。
(注24)新華社「習近平主席、マクロン仏大統領と共同記者会見」(2024年5月6日)。
(注25)『習近平関于中国特色大国外交論述摘編(中国の特色ある大国外交に関する習近平氏の論述抄録)』(中央文献出版社、2020年版)228ページ。
(注26)新華社「習近平主席、第16回BRICS首脳会議で重要演説」(2024年10月23日)。
(注27)新華社「習近平主席、APECのCEOサミットで書面演説」(2024年11月15日)。
(注28)『習近平関于中国特色大国外交論述摘編(中国の特色ある大国外交に関する習近平氏の論述抄録)』(中央文献出版社、2020年版)228ページ。
(注29)習近平『論堅持推動構建人類命運共同体(人類運命共同体の構築推進の堅持を論じる)』(中央文献出版社、2018年版)384ページ。
(注30)『習近平外交演説集』第2卷(中央文献出版社、2022年版)355ページ。
(注31)習近平『論党的宣伝思想工作(党の宣伝思想活動を論じる)』(中央文献出版社、2020年版)80ページ。