10日、第7回中国国際輸入博覧会で、大相科技の商品ケースの前に列を作る人たち。(上海=新華社記者/彭純)
【新華社上海11月20日】中国上海市で10日まで6日間開かれた第7回中国国際輸入博覧会では、連日にわたり陝西省の人的・文化交流活動ブースに行列ができていた。同省西安市で雑貨や玩具など文化クリエーティブ商品の開発を手がける大相科技の創業者、劉子斉(りゅう・しさい)最高経営責任者(CEO)は会場での取材に対し「絨饃饃(ロンモーモー)を買いにきた人がとても多かった。年齢層も幅広かった」と喜びを語った。絨饃饃とは同省の名物料理で中国風ハンバーガーとも呼ばれる「肉夾饃(ロウジャーモー)」をモチーフにしたぬいぐるみで、7月の発売以来、25万個近く売れたという。
絨饃饃の人気は中国で既に珍しい現象ではなくなった。最近では多くの博物館や文化クリエーティブブランドが地域色豊かなぬいぐるみ製品を発売しており、甘粛省博物館が発表した同省天水市の名物料理「麻辣燙(マーラータン)」をモチーフに発売したぬいぐるみは、オンライン予約の開始後1週間で20万人近くが購入し、ミュージアムショップの売上高は前年同期の4・4倍になった。
10日、第7回中国国際輸入博覧会で、購入した「絨饃饃」を見せる人。(上海=新華社記者/彭純)
人々はなぜぬいぐるみを買い求めるのか。取材を通じて得られたキーワードは「癒やし」だった。
輸入博の消費財展示エリアでは、アルパカのぬいぐるみを真剣に選ぶ60代女性の姿があった。アルパカに被せるニット帽も幾つか選んだといい「こういうものが好き。かわいいし、癒される」と話した。
アルパカのぬいぐるみを既に多数所有しているという30代の女性会社員も多くのぬいぐるみを選んだ。「(ぬいぐるみを買うのに)理由は必要ない。ただ楽しい。飾っておくだけでも感情的価値がある」と語った。
感情的価値への支出をいとわない背景には、自己の満足感や幸福感のための感性消費を追求し、セルフ・コンパッション(自分への思いやり)と精神的満足を重視する新たな消費トレンドがある。米コンサルティング大手マッキンゼーが発表した中国消費動向調査(2024)は、消費者の64%が精神的な消費をより重視するようになり、若者にその傾向が強いとしている。
アルパカ天然毛を使ったぬいぐるみや雑貨を手がけるオーストラリア発のブランド「INJOI(インジョイ)」中国法人の張雲全(ちょう・うんぜん)CEOは、ぬいぐるみは消費者の身近にあることで感情的価値を提供できると指摘する。張氏は2011年にオーストラリアからアルパカのぬいぐるみを導入。13年間の事業展開の中でぬいぐるみ市場も母子向けから全年齢層へ徐々に拡大したという。
10日、第7回中国国際輸入博覧会で、アルパカのぬいぐるみと記念撮影する人。(上海=新華社記者/彭純)
若者にとって、ぬいぐるみは感情的価値を与えてくれるだけでなく、成長を共にする「仲間」でもある。
上海交通大学メディア・コミュニケーション学院の徐剣(じょ・けん)副院長は、ぬいぐるみが次々と人気となる背景には中国の若者世代の消費者の台頭があると指摘。多くが一人っ子で、中国の製造業の勃興と共に育った彼らにとって、商業化したぬいぐるみは幼少期の日常であり、相棒でもあったとし「中国の若者世代の消費者の台頭は消費市場全体に大きな影響があり、市場の風向計になっている」との見方を示した。
ぬいぐるみに熱中する人は中高年層でも増えている。あるぬいぐるみ店の店員は、中高年の客は見た目だけでなく素材も重視するとし「コレクションを楽しむ人もいる。大体が40~50代で経済力もある」と話した。
10日、第7回中国国際輸入博覧会で、アルパカのぬいぐるみを選ぶ人。(上海=新華社記者/彭純)
調査会社、中研普華の産業研究院が出した研究リポートは、中国のぬいぐるみ市場が既にかなりの規模に達し、成長を続けているとし、23年に639億3千万元(1元=約21円)だった世界のぬいぐるみ市場の規模は29年に776億9700万元になると予測する。中国は重要な市場の一つであり、市場規模は軽視できない。
電子商取引(EC)大手アリババグループ傘下の通販サイト「天猫(Tモール)」販売データに対する中国玩具・ベビーキッズ用品協会の追跡調査によると、今年上半期(1~6月)の玩具主要品目の総売上高は前年同期比9・3%増となり、うちぬいぐるみは9・2%増と伸び率で上位3品目に入った。ぬいぐるみ人気は高まり続けている。
11日、北京市内のぬいぐるみ店で、ぬいぐるみを選ぶ人。(北京=新華社記者/楊珏)
大相科技の劉氏は「人気製品には少なくとも三つの要素がある。品質が高く、良い体験を提供でき、同時に良い文化が込められていることだ」と指摘。上海交通大学の徐副院長も、伝統文化に基づき創作された文化クリエーティブ製品は「古臭い」イメージから脱却し、新たな消費トレンドに応えているとの見方を示した。
今回の輸入博で大口注文を受けたとするINJOIの張氏は、ぬいぐるみ市場を依然、楽観視しており「中国のぬいぐるみ市場は成長段階にあり、今後はさらに細分化される」と語った。張氏に自信を与えているのは中国経済の粘り強さと潜在力であり、人々の生活水準がさらに向上すれば、より高い品質を求める精神的なニーズが生まれると確信している。(記者/彭純、楊珏、黄安琪)
14日、玩具メーカー「ポップマート」の店舗で、ぬいぐるみを選ぶ人。(上海=新華社記者/張夢潔)
10日、第7回中国国際輸入博覧会で大相科技が展示した「絨饃饃」。(上海=新華社記者/常博深)