6日、新華社の取材に応じる梶望氏(左)。(上海=新華社記者/彭純)
【新華社上海11月8日】すべての人に楽器を演奏する喜びを提供する――。上海で開催中の中国国際輸入博覧会のソニーブースで、そんなコンセプトで開発された「ゆる楽器」が展示されている。ソニー・ミュージックエンタテインメントで「ゆるミュージック」プロジェクトを担当する梶望氏に、中国での活動や今後の展望について聞いた。
楽器の演奏に憧れる人は多いが、楽譜が読めない、才能がないなどさまざまな原因で諦めてしまいがちなもの。アイデアとテクノロジーにより、子どもでも高齢者でも、健常者でも障害者でも簡単に演奏できるよう開発したのがゆる楽器だ。アイデアを競う「ハッカソン」は日本だけでなく海外でも開かれている。中国では昨年の輸入博でプロジェクトを始動、今年すでに上海で2回のハッカソンを開催した。
梶氏は中国でのプロジェクト展開に手応えを感じている。海外でのハッカソンで苦労するのが、独特の日本語表現である「ゆる」を現地の人にどう理解してもらうかということ(中国語のプロジェクト名は「悠如音楽」と音訳)。だが2回目のハッカソンでは「ゆる」の概念が参加者の間に浸透しているのを感じた。障害者や高齢者などさまざまな立場の人々がそれぞれのアイデアで参加してくれたことに感動したという。
6日、輸入博のソニーブースに展示された「葫蘆絲」を基にしたゆる楽器。(上海=新華社記者/彭純)
中国の伝統楽器の「ゆる化」も進めている。今回の輸入博では、雲南省などに伝わる「葫蘆絲」(フールースー=ひょうたん笛)を基にしたゆる楽器を展示した。梶氏はプロジェクトを通じ「知らなかった楽器や音楽にも出会うことができた」とし、中国での活動について「お互いの文化や歴史、音楽に対する考え方やアイデンティティー、魅力を知ることができる活動に広がってきている」と意義を実感している。
ゆる楽器の開発で難しいのは「すべての人が楽しめる」楽器をいかに実現するかということ。例えば障害にもさまざまな「個性」がある。「それぞれの『個性』に合わせたいろいろな楽器をつくらないと、本当に理想とするゆるミュージックの世界は実現できない」。そのためには多様な立場の人と知り合い、一緒に楽器を作るということをまだまだしなければならない。道のりは長いが「小さな『できた』を重ねる」ことに努めているという。
日本で活動しているゆる楽器のバンド「ゆるミュージックほぼオールスターズ」に中国人メンバーが加入したり、「大福くん」が中国でのマスコットキャラクターに起用されたり、ゆるミュージックの中国事業は着実に広がりつつある。教育や介護、国の事業などでのビジネス化にも期待がかかる。梶氏は「子どもからお年寄りまでみんなが音楽を楽しめる世界を実現することでビジネスにもつなげていきたい」と抱負を語った。(記者/彭純、常博深、許暁青)