甘粛省天水市秦州区の天水古城を散策する観光客。(3月20日撮影、天水=新華社記者/范培珅)
【新華社北京8月29日】中国では今年、地域観光発展の一形態として「県域旅行」が急成長している。知られざる観光地が続々と発掘され、多くの若者が地方の中小都市、県を旅行の目的地として選ぶようになっている。6月に発表された「全国県域観光発展研究リポート2024」によると、全国の県域1866カ所における2023年の観光収入は前年比41・2%増の42億9500万元(1元=約20円)、観光客数は35・2%増の508万2700人と顕著な伸びを示した。
浙江省湖州市安吉県横山村では、使われなくなった工場が新しい若者コミュニティー「デジタルノマドコミューン」へと生まれ変わった。8千平方メートル以上のスペースに、共用のオフィスエリアと居住エリアが設けられ、5月末までに「デジタルノマド」1800人が滞在した。滞在者の平均年齢は30歳、平均滞在日数は20日で、職業はセルフメディア運営者や短編動画ブロガー、ネットマーケティングの専門家などさまざま。ここでは若者が共用エリアに集まってコーヒーを飲みながら「ブレーンストーミング」するのが日常の風景。ある「デジタルノマド」は、働きながら旅をする、あこがれの生活を見つけたと話している。
浙江省安吉県梅渓鎮紅廟村のカフェ「深藍計画」。(ドローンから、安吉=新華社記者/翁忻暘)
江西省南部の山間部に位置する小さな県、会昌県では今年すでに、文化イベントが500回以上開催され、観光客360万人以上が訪れている。国内の興行団体だけでなく、フランスやスペインなど海外の劇団による公演も多い。イタリアのサルデーニャ・シアターは、シェークスピアの傑作「マクベス」の世界ツアー中国大陸公演を同県で唯一行い、これまであまり知られていなかった小さな県が国際的な演劇公演の舞台となった。
「美食のためならどこまでも」。3月、甘粛省天水市の名物料理「麻辣燙(マーラータン)」が交流サイト(SNS)上で人気に火が付き、多くの観光客が同市を訪れるようになった。今年の夏休み、市内のマーラータン店は、依然として学生や家族連れらでにぎわった。インターネットによって地方の美食も瞬く間に全国区の知名度を得る。若者は、美食のためなら他の都市まで足を運ぶこともいとわない。
江西省贛州市にある会昌演劇小鎮の舞台に立つパントマイムの役者。(2月13日撮影、会昌=新華社配信)
コストパフォーマンスの良さと気楽さが、若者に「県域旅行」が人気となっている理由だ。オンライン旅行大手、携程集団(トリップドットコムグループ)傘下のシンクタンク、携程研究院のアナリスト王亜磊(おう・あらい)氏は、県域観光ブームの背景には消費者の成熟があると指摘する。旅の目的が、有名な観光地に行って写真を撮って帰るだけの表面的なものから体験重視にシフトし、食、住、交通、娯楽など楽しみ方も多様になり、旅行は人生の本質に回帰しつつあるという。中国観光研究院企画・レジャー研究所の李雪(り・せつ)副研究員は、県城は美しい風景だけでなく、質の高い生活空間も含んでおり、これらが県域観光の競争力を構成する核となる要素だとみている。(記者/沈氷潔)